哲学と冗談

L'amore più profondo non può essere facilmente compreso.

けれども

「だって、君は優しいじゃないか。」

ジェブが真顔で言った。確かにそう言った。

「やだ、冗談でしょ?」

私は得意の皮肉っぽい声と眉をひそめる表情を作って、鼻で笑う。

「私が優しいですって?貴方って本当におかしいわ。笑っちゃう。ねえ、私なんか、コウモリの世話もまともにしたことがないし、冷蔵庫の中にはいつもレモンと膏薬を揃えておかないし、烏帽子もろくに身につけないわ。およそ世間一般で語られるところの"優しいお嬢さん"なんかじゃないのよ。」

「コウモリの世話をして、レモンと膏薬を冷蔵庫に入れて、烏帽子を身につけていたら、優しいのかい。」

「嗚呼呆れた、そうよ。小学校で習わなかった?周りのお嬢さんはみんなそうしてるじゃない。」

「あはは。樺、君は、僕じゃなくて、表面的な優しさ誇示のために翻弄される世間について、呆れてるんじゃないのかな。」

「そんなことないわ。どれも、素敵なことだと思うもの。」

 

そうして私は、両手に掴んだ雌鶏の、ふっくらとしたお腹をさする。

 

「君にはできっこない。」

 

声は冗談のようにニコニコしながら、目だけは真っ直ぐ冷静な瞳。

その、何でも見透かしてしまうようなジェブの悪戯心にはいつも根負けしてしまう。

 

「……わかった。わかりました。私には、これを、お祭りのゲームのために殺めることはできない。優しくない、教養の無い人間で、申し訳ないわ。」

精一杯の作り笑顔のために口角を上げる。目はどうしても伏せてしまう。

 

「君は本当に、変だけど。優しい人だね。」

「嘘はやめてジェブ。怒るわよ。」

「おやおやごめんなさい。でもね樺、僕は、もしかしたらこの宇宙のどこかに、今僕たちが知っているマナーや教養や常識なんか、とてもナンセンスで馬鹿げていて狂っている、そんなことを言ってくれる星がある気がするんだ。」

 

雌鶏を抱きしめる。

きっとこんなことをしたら、また、あの女はおかしい、檻に閉じ込めろ!なんて言われてしまう。

 

けれども。

 

「樺、雌鶏をそんな風に抱く女の子は、僕見たことないよ。今まで一度も。」

 

呆れてるのか馬鹿にしてるのか、はたまた諦めてるのかわからない。それでもジェブは優しい瞳で、私を見つめてくれる。

その、宮司のような美しい瞳を見ていると、不意に涙が溢れてきた。