もう行ってしまうのですね。
私たちが過ごした幾ばくかの時間は、
現実世界の時間の流れを歪ませてしまうくらい、
美しくて幸せで、儚いものでした。
一緒に海の中を散歩したこと、
孤独を語り合ったこと、
大人になれなかった私と、
大人を置いてきたあなたと、
嬉しい日と、悲しい日と、
美しい日と、暖かい日と、
明日死ぬかのように愛し合った日と、
永遠に生きるかのように安心して眠りについた日と、
全部全部、無かったことにされてしまうのですか。
世界に絶望しているのは、私だけだったのでしょうか。
どうか、ご自分のことを思い出さないでください。
あなたの人生を、覗かないでください。
これは私の最後のわがままであり、あなたへの復讐です。
だって、私だけ暗い海の底に残って、老いもせず死にもせずに、あなたのことを想い続けるなんて、残酷です。
あなたの物語の、一時的な登場人物に過ぎなかった、なんて思われたくないから、
だから、現実の時間を過ごせ”なかった”あなたの時間を、どうか、見つめないでください。
さようなら。