絶望と欲望と杏子

Questa è la vita.

残糖

砂糖の海を泳いでみた。

泳ぐ、泳ぐ

そんなに遠くへ行ったら、危ないわ、

誰かが言うけど、私は気にせず砂糖の海を泳ぐ。

そのうち砂糖がもやもやと姿を変えて

イチゴのケーキ、ピンクのマカロン、シナモンのかかったチュロス、ふわふわの綿飴、カラフルなドーナツ、

いっぱいのお菓子に包まれた。

ドキドキして深呼吸して、金平糖でできた砂浜を転びそうになりながら歩く。

他に人影はないけど、どうしてもこのお菓子を食べるのは憚られてガマンすることにした。

ガマン、ガマン

……でもちょっとだけなら、いいかしら

誰に言うでもなく呟いたら、

ここのものは何でも、食べていいんだよ

声がした方を振り向くと、鳶色の髪の青年がこちらへ向かってきた。

ニコニコしていて惹かれてしまう。

青年は板チョコを取り出してパリパリと食べ始めた。

私もこのアップルパイを、食べようかな。

どうぞ召し上がれ、ここにあるものは、何でも。

青年はあぐらをかきながら私を覗く。

その目がとても美しく見えて、目の前のお菓子に手を伸ばす。

私はもぐもぐと美味しい菓子をいただいた。

青年は板チョコを食べながら私のことを見つめていて、そうするのが私たちにとって自然なことみたい。

こんなに美味しいものを食べるのは初めてで、夢中になってもぐもぐ、もぐもぐ。

とうとうお腹がいっぱいになってしまった。

もう満足よ。

 

青年は、おいで、と私に手招き。

 

あのね、と言いかけたけど、

 

青年は私の頭をもぐもぐと食べてしまいました。

 

この時の感情を片付けることができなくて、私の心臓はまだ砂糖の海に浮かんでいるのです。