絶望と欲望と

Questa è la vita.

千文字小説「フィードバック制御」

3歳の時に、お人形の顔を綺麗にしてあげようと思ってベンジンを塗ったら顔が消えちゃって、おかしい子だと言われた。おかしい子だと言われないようにお人形を大事にするフリをした。

 

6歳の時に、腕に通っていた点滴の針が動きづらくて遊べないから引っこ抜いたら野蛮な子だと言われた。野蛮だと言われないように病院の中では何も話さなくなった。

 

10歳の時に、インターネットで交流していた女の子を大人の男だと見破ったら逆に「こんなにキレる人が10歳なわけがない、詐欺だ」と言われた。10歳に思われるように子供っぽい文章を書く勉強をした。

 

12歳の時に、すごく年上の人に恋をした。「こんなおじさんを好きになるなんておかしいよ」って言われたから、すぐに追いついてみせますと答えた。

 

14歳の時に、恋をした人が死んだことを人伝いに知った。これで彼の年齢は変わらなくなった。

 

16歳の時に、人間に気持ちとか感情があることに気づいた。感情があるってとても健康的に見えると思ったので、私も真似した。魅力的な人間だと思われるようになった。

 

18歳の時に、初めてセックスを経験した。人に愛されるような普通の人間になれたみたいで嬉しかった。

 

20歳の時に、素朴で普通な人と結婚した。相手の家族に「真面目な良い子」だと言われて嬉しかった。

 

21歳の時に、子供が産まれた。「良いお母さんだね」って言われて嬉しかった。

 

28歳の時に、夫が口うるさく「君はおかしい」と言ってきた。黙って欲しいので包丁でいっぱい刺した。夫は動かなくなった。これで「おかしい」って言われなくなった。夫はすき焼きとチーズタッカルビにして子供と食べた。

 

29歳の時に、夫がいなくなったことを不審に思った親族の誰かに通報された。捕まったあと、テレビで知人と名乗る人物から「彼女は普段すごく良い人だった」と言われて嬉しかった。だって良い子にしてたもん。当たり前。

 

 

今、かつて恋をした人と同じ年齢になりました。ようやく、好きになってもおかしいと言われない歳になったよ。

病院にいるため話すことができないので、文章に残しました。

なるべく早くそっちに行くね。

私は良い子。私は良い子。私は良い子。

だってほら、あの時のお人形だってまだ大事にしているもの。そういうの良い子って、言うんじゃないの?

いつも私を良い子に制御してくれたこの世界が大好きです。