絶望と欲望と杏子

Questa è la vita.

スズキくん2

スズキくんは所謂オタク系男子で、アメリカンスクールカースト風にいうとギークだった。

見た目に清潔感がまるでなく、いつもだらしない格好をしているので女子からは嫌われていたが、男子からは頭が良く物知りで話が面白いということで一目置かれていた。

 

そんなスズキくんが、目の前に。

 

「コメントくれたのスズキくんだったんだ。どうしてあそこの管理人が私だって分かったの。」

「プロフィールやサイトを隈なく調べればわかるよ。」

「調べるって言っても、私個人情報とか全然載っけてないよ。」

「自分では気づかないだろうけど、掲示板で他の人との会話のやり取りとか、サイトのアドレスとか、色々推理するとわかるんだよ。」

 

持っている情報に差があったとはいえ、自分は正体を知られてしまったのに相手の正体を見破れなかったことに少し苛立った。

 

「スズキくんはパソコンにも詳しいの?」

「全然詳しくないよ。」

「ホームページ持ってる?」

「持ってない。」

 

スズキくんがパソコンに詳しくなくてサイトを持っていないと自称することに少しだけ優越感を覚えた、幼稚だった私。

ちょっと考えればわかることなのに、どうして彼の言葉を信じたんだろう。

 

「またスズキくんにメールしてもいい?」

「良いけど、それならこっちのアドレスにメールして。昨日のは捨てアドだから。」

 

そういうと彼は、フリーメールではないドメインのアドレスを紙に書いて渡してくれた。

 

「杏子さんは俺とリアルで話して気持ち悪いと思わないの」

 

思うよ、とも言えなかったから、なんで、と聞いてみた。

 

俺女子に嫌われてるから」

 

そうだねぇ嫌われてるねぇ、とも言えずに、大丈夫だよ、と言っておいた。

 

私自身オタクな癖にオタクの男子に偏見を持っていて、スズキくんと会話するのもこの日が初めてだった。

スズキくんのことは嫌いではないけれど女子のほとんどはスズキくんのことが嫌いだったので、私もスズキくんのことはうっすら苦手だった。

 

「あの、一緒に帰る?」

まだ思春期でない私たちのクラスでは、帰る時間と帰り道が同じ人とは男女問わずとりあえず一緒に帰る習慣があった。

スズキくんのことは苦手だったけど、それ以上にクラスの掟に背くのは不自然だし、何よりここで一緒に帰らないほうが気まずいだろう。

しかし彼は「いや、1人で帰る。」と言い残して上履きを脱ぎながら下駄箱に向かってしまった。

 

「わかった。」

 

本人に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで呟いたその言葉は彼が初めて話しかけてくれた言葉と同じだったのに、私は全然わかってなかった。

 

 

 

続きます。