絶望と欲望と

Questa è la vita.

メイド喫茶で働いていたときのこと2

同僚に「今年の抱負は?」と聞かれたので、(あれ?もう2月だけど?)と思いつつ「生きること!」と即答しました。杏子です。

 

引き続きメイド喫茶の話。

 

私のいたお店の店長さんは、ひょろっとしていて爽やかでガンガン話してくるフレンドリーな人で、女好きだけど几帳面できちんとしていたので信頼されていました。

また、お触りをしてくる客や女の子を困らせる客に対しては容赦なく説教して出禁にしてくれる頼もしい人でもありました、客からは恐れられてたけど。

 

入店して初めての日に、店長からお店の一通りの講習を受けました。メイドの先輩ではなく、店長本人が直々に教えることが重要だそうです。

先輩Aさんと先輩Bさんから教えてもらった内容が違う!となるとトラブルや不信感の原因になりますし、これはメイド業界に限らずとても良い教育方法ではないでしょうか。

 

その後は、唯一店長が講習できない「チラシ配り」を私より少し前に入ったばかりの ゆうこちゃん から教えてもらいました。

チラシ配りは今はほとんどの路上で管理が厳しくなっていると思いますが当時はかなり規制が緩く、秋葉原を歩くと3秒に1人くらいメイドさんがチラシ配りしてました。

ゆうこちゃんはバンギャ(分からない人は調べておこう!メイド業界頻出単語だよ!)でクールな性格だけどめっちゃ面白い子で「仲良くなれそうで良かった〜!」と言ってくれたのですが、私が入店した2日後に失踪してしまいました。俗に言う「飛ぶ」ってやつです。これもメイド業界頻出単語です。覚えておきましょう。

 

これでほとんどの仕事内容を教わったのですが、正直言って「簡単」だなあ、なんて思ってしまいました。

基本的にはお客さんと話してるだけだし。

そう思っていたら、なんと入店初日の私に「指名」がきました。

驚いていると店長曰く常連のお客様で、ほぼ毎日来店してお店にいる女の子全員を順番に指名するタイプの優しいおじいさんだそう。

全員指名するといっても初めての指名客さんです。緊張して席に向かいます。

 

「はじめまして!杏子です」

「はじめまして。石川と申します。よろしくね。趣味は鉄道模型と、このお店に来ること。大手電機会社に勤めてたけど定年退職したよ。このお店には週に5回くらい来るからね。これから頑張ってね。」

 

石川と名乗るそのお爺さんは、慣れた口調で自己紹介をしてくれました。恐らく新人さんと出会う度にこれを言ってるのかな。

石川さんはとてもおしゃべりな人で、このお店の女の子の話とか、店長と仲が良いとか、鉄道の話とかを沢山してくれました。恐らく1時間くらい。

こんなに年上の人と1時間も話したことがなかったのと、年齢が離れていることで「面白さの共通項」が違うな、と感じてテンポが噛み合わないまま話し続けたので、時間が来る頃には頭痛がするくらい疲労困憊していました。

 

知らない人と会話するって、こんなに辛いことだったんだ。

 

 

テーブルを離れた私のところに店長が近寄って来ます。

「どうだった、良い人でしょ、石川さん。」

「そうですね、良い人でした。」

「でもさ、疲れるっしょ(笑)」

「とっても、疲れました!(笑)」

 

やっぱり石川さん辛いよなぁー、と笑いながら、店長はこんなことを言ってくれました。

 

「仲良くない男と同じ場所に留まって会話するのって、めっちゃキツイでしょ。でも、男なんて可愛い女の子と話してれば内容なんてどうでもいいから、もっとゆるく、話しちゃっていいよ。面倒な男には、馬鹿なフリしとけば大丈夫。こっちは夢の国なんだから。」

 

つまりメイド喫茶における会話の中で求められているのは話の整合性や論理性ではなく「なんかわかんないけど面白い、可愛い、ふわふわ!」という《雰囲気》なのだ、ということを語ってくれました。

 

これは、誤解を恐れずに言えば正直メイド喫茶に限らずあらゆる場面で役に立つ処世術ではあると思います。

諸刃の剣ですけど。

全員ではないですが一定数の男は「俺より少し馬鹿っぽい女の子」が好きなので、本当に落としたい男の子がいる場合は使ってもいいんじゃないかと思います。

けれども『「俺より少し馬鹿っぽい女の子が好き」といった古臭い女性観を持ち自分に自信も無く向上心もなく己の無知を恥じるどころか他人との相対評価でしか満足を得られない男』のことを好きになるよりも、レディの皆さんにはもう少し骨のある男と付き合ってもらいたいですね。

ですがメイド喫茶に来るお客さんを自分のファンにさせたい場合はこの技を"割り切って"行使すべきだと思います。もうガンガン使っていっちゃいましょう。

 

私と同じ時期に入店した女の子に、 ゆい ちゃんという子がいました。

ゆいちゃんは映画や音楽などの芸術分野に詳しく、お客さんともたまにこういった話で盛り上がっていました。

私は物知りな人を尊敬しているので、素直にすごいなあと思いつつ横耳で聞いていたのですが、お客さんが帰った後。

 

店長「ゆい、さっきの会話はダメだよ。お客様、盛り上がってなかったでしょ」

ゆい「そうそう、なんでだろー、映画が好きなお客さんだったから沢山話したのに。」

店長「それがダメなんだよ。ゆい、あの人がマイナーな映画のタイトル言ったらそれ知ってるーって被せただろ。男は年下の女に知識で負けるとむかつくんだよ。教えてあげたいんだよ。しょうもないけど。」

ゆい「えー、面倒だなあ。」

店長「お店で人気が出る子は2パターン。一つは本当に馬鹿な子、もう一つは馬鹿のふりができる子だよ。人気出たかったら馬鹿のふりの方が手っ取り早い。本当に馬鹿になるわけじゃないし、客に馬鹿だと思われてもどうでもいいって思ってればいいよ。向こうが人間だと思うから真面目に話したくなっちゃうんだよ。」

 

たしかにお店で人気が出ている子は、馬鹿のふりがとても上手な賢い子たちだった。

本当に馬鹿な子なんて1人もいなかったと思う。

 

現に私も、知っていることを聞かれたときに知らないフリをして「なにそれ、教えて!」という態度にしただけで指名客が増えていった。

全部「わからなーい」と言うのではなく、客の得意分野は知らないフリ、客の不得意分野&知りたそうなことはきちんと答える、といった使い分けをすると喜ばれる。

 

ここまで来ると、客を客としか思えなくなる。

客をいちいち自我を持った人間だと思っていると面倒なことが色々起こったり傷つくことが多くなるので、ビジネスライクに処理していくしかないのだ。

 

これ、メイド喫茶のお客様が見ていて「人と思われてないなんて!」って悲しむ必要ないです。大丈夫。これはお互いを守るための不文律であってお客様のことが嫌いなわけではないから安心してください。

フォローしておくと、女の子と上手く話せる自信がない……とか、無口で暗いと思われたらどうしよう……と思ってるような人ほどメイド喫茶はおすすめ。

基本的に客から話さなくてもメイドさんがペラペラ喋ってくれたり遊んでくれたりするので、行ってお気に入りの子を見ているだけでも楽しめますよ。

落ち着いて会話したいなら人気チェーンよりも個人経営の席数が少ないところの方がおすすめです。

 

 

さて、メイド喫茶体験入店編はいかがでしたでしょうか。

次はもっと深いところを突いていこうかな。